2002/1/10  生分解性プラスチックのお話U
 
18.微生物産生系生分解性プラスチック/その2
 
引き続きバイオポールについて、今回はより具体的に成形性を中心にその注意点について話を進めてみよう。
 
一般の射出成形におけるバイオポールは極めて成形しづらい材料であった。良品を得るには制御の良く効く最新の成形機と精密金型を必要とする。バイオポールのこの「しづらさ」は主に温度特性と溶融時の流動特性による所が大きく、これが成形機にも金型にも厳しい要因である。
 
1.温度特性
成形温度域とプラの分解域が近接しており、わずかな温度設定の差が成形性及び成形品品質全体に大きく影響する。バイオポールでは成形機設定温度のオーバーシュートも考慮すべきであり、特に加熱筒前部における滞留時間は可能な限り短くする。これは最大でも数分以内、理想的には3分以内としたい。したがって、成形機自身の射出能力もキャビティ容積に対して、概ね2倍以下とした方が安全だろう。
通常、設定温度は概ね140〜180℃程度とし、後部温度を上げ過ぎないよう注意する。成形機は可塑化能力の高いハイサイクルタイプは適さず、スクリュー圧縮比の低いものが望ましい。可能ならば塩ビ等の成形機があれば好ましいだろう。
また、200℃以上では分解が始まると思って良い。プラは分解すると黒っぽい泥水のようになり、射出すると水鉄砲のように吹き出す。その際、金型のスプルーやランナーに進入するとやっかいなので、紙などでスプルー部を塞いでおくこと。尚、分解したプラはパージしてもなかなか抜けないことがあるので、透明や薄色物などを扱う成形機でのトライは避けた方が良い。更に、成形を一時中断する場合はたとえ短時間であっても、通常の成形温度より50℃程度下げておくことが望ましい。
2.流動性
PPなど汎用プラの溶けた状態を水飴やお好み焼きの汁とすれば、バイオポールのそれはもんじゃ焼きの汁に例えて良い。ちょっと温度を上げ過ぎただけでもトロトロの液状となり、成形機ノズルからも垂れ落ちることがある。計量時の背圧も「0」に近い設定となるが、反面、空気の巻き込みも増えるので返ってノズルより吹き出す原因となる可能性もある。また、パージ中など背圧が低い状態でもノズルがオープンの状態では計量しない(スクリューがバックしない)ことがあるので、そのような場合は計量完了位置付近まで一旦スクリュー位置を下げてから回転させるようにする。もちろんスクリュー回転数も低く設定し、せん断発熱を極力抑えるようにしたい。
更に、バルブノズル(ナイロンノズル)などシャットアウトノズルの採用も一案であるが、ここでも射出時発熱を伴う場合が多いので注意が必要である。場合によっては部分的に分解が始まってしまうこともあり、ケース・バイ・ケースとなる。
いずれにしろ上述の1項同様、温度については細心の注意により微妙な調整を施した方が良い。
3.固化とバリ
バイオポールはプラ自身の固化が遅く、前述の流動性による要因と共に極めてバリがさしやすい。金型は良品を得ようとすれば自ずと精密型を必要とし、PPSなどスーパーエンプラなどと同等の精度がほしい。エアーベントの設定は事実上無いに等しく、前述の温度はもちろん、射出スピードと射出圧力及び保圧の設定には細心の注意を払ってほしい。
ちなみにプラメーカーからは、型温60℃付近がもっとも結晶化の早い領域とアナウンスされており、更に「低温でゆっくり押し出す」ことが推奨されているようである。従来プラからの常識は必ずしも通用しないのでご注意願いたい。
但し、それでも完全にバリを押さえることは困難であることが多く、パーティングラインの位置や外観状態の打ち合わせには設計段階からあらかじめ良く検討しておく必要がある。
4.ブレンド
前述の1〜3で共に対策の一案として、パルプなど植物繊維のブレンドがある程度有効である。あくまで試作的な対応ではあるが、(材料変更という意味でエンドユーザーとの打ち合わせも必要だろうが)良く乾燥させたパルプがあれば直接ペレットとブレンドして成形機ホッパーに投入しても良い。もちろんその際、MFRなど材料グレードの選定にも注意を要する。パルプの場合、最大重量比50%程度までブレンド可能で、安いパルプの使用はコストダウンメリットも大きい。これにより物性も自ずと固くなり、用途によっては面白い効果を発揮するかもしれない。尚、20〜30%程度までのブレンドでは靱性が大きく落ちることは無いと思われる。
また、パルプの他、タルクや無機フィラーなどの混合でも同様の効果が得られ、これらは一時専用グレードとしてメーカーでも開発していたと記憶している。
5.材料パージ
バイオポールは加熱筒内で分解させてしまった場合、上述のように若干抜けづらいところがある。通常パージはPEやPPで問題ないが、このような場合はPSを使用し170℃程度から220℃程度まで、徐々に温度を上げながらパージすると良い。また更にPMMA(アクリル)があれば、若干カリカリ音がする程度のパージを繰り返すと抜けが早いこともある。いずれの場合も最後は先のPE・PP等に替えておくこと。
また、1日の作業終了後機械を止める場合は翌日同じ成形予定があっても、最後にコップ1杯程度のPEやPPを流しておくことをお勧めしたい。
6.寸法安定性
バイオポールを含むすべての生分解性プラについて、現状での寸法安定性はほとんど期待出来ない。バイオポールは一応結晶性プラであり2〜3%程度の収縮率と見るのが一般的ではあるが、シビアな寸法精度は望むべくも無いだろう。精密さを要求される製品には不向きであり、組立物などの場合ではあらかじめ試作型などにより検討することが望ましい。
いずれにしろ現状の生分解性プラに精度を要求してはいけない。
7.予備乾燥
バイオポールはポリエステルでありその仲間がいずれも水分を嫌うように、成形前には予備乾燥を行いたい。筆者の経験的には高めの温度で短時間とするより、低めの温度で長時間行った方が材料自身の変色や乾燥ムラを防ぎ、後の成形作業上良いように思われた。具体的には一般の熱風循環式(含む除湿)乾燥器の場合60℃前後で8h程度、がベストではないかと思っている。尚、やはり筆者の経験的感想だが、乾燥無しで成形性に問題はあっても物性に及ぼす影響は比較的軽微なように思われた(←厳密に測定した訳ではない)。
 
次回は金型製作上の注意点について。
 
つづく
 
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