2003/6/11  生分解性プラスチックのお話U
 
33.化学合成系生分解性プラスチック/PCL系その2
 
PCL系生分解性プラスチックは汎用プラのPPに近似した「脂肪族ポリエステル」である。成形性のバランスという意味では数ある生分解性プラスチック中でもセルロース系と共に、もっとも優れる部類に属する。適度な弾力と剛性を合わせ持つことから、アンダーカットや無理抜きなども通常設定される範囲で可能である。上市当初著しく劣る耐熱性の問題からかなり特殊なプラスチックと判断されたのも、すでに過去の話となった。現在は「セルグリーンPHBグレード」などの登場により、様々な製品への展開を期待したい素材となった。
1.温度特性
成形温度域は概ね140℃〜180℃程度とし、160〜170℃前後で設定すれば大きく問題となることは無いだろう。
溶融温度が低く全体として温度設定も低めとなることは否めないが、意外に熱的安定性には優れ多少のことですぐ分解に至る可能性は低い。上記温度範囲であれば通常の成形において、ことさら神経質になることは無いだろう。もっとも結晶性プラでもあるので、必要以上高温に設定しても利点は少ないと思われる。
2.計量
PCL系プラは計量時、希に計量不能の異常を起こす場合がある。
これは計量口付近におけるスクリューの伝導熱によるもので、乳酸系プラと同じくこの部位をしっかり冷却しておかなければならない。材料と装置高温部との長時間の接触を出来るだけ避け、冷却水の循環に配慮をしよう。不幸にもここで材料が溶けてしまった場合、まったく計量できなくなる場合もありうる。試作のような比較的短時間のトライでは問題なくても、量産時に起こるトラブル原因はこういう単純な所にあるものである。その意味で常に配慮を怠らないようにしたい。ここでも乳酸系プラと同じように、ホッパーには一度に大量の材料を投入しない方が良いだろう。可能ならば成形機スクリューの計量とは別に、定量を供給する「材料供給装置」などあれば万全かと思われる。
3.流動性
生分解性プラスチックの中では中位程度に属する。
PBS系には劣るが乳酸系よりは良いという範囲に入る。汎用プラと比較すれば概ねABS並と思って差し支えない。溶けた状態はトロっとしたもので、ゆるめの水飴のような状態である。PPほど粘つきは無いが思ったほどにはバリも出にくく、充填不足に悩まされることは少ないだろう。
4.金型冷却と固化
PCL系プラは生分解性プラスチック中では固化の早い部類に属する。
とは言えあくまで生分解性プラスチック中での比較なので、汎用プラのような訳にはいかない。それでも現在主流のPHBグレード(セルグリーン)の場合、金型温度40℃程度までであれば、PPやABSなど汎用プラに近いサイクルタイムで成形可能と思われる。前述のようにPCL系プラは結晶性プラであるが、材料本来の性能と成形性を両立する金型温度として30〜40℃程度となるよう設定したい。
5.取り出し
PCL系プラは生分解性プラスチック中もっとも離型性に優れる部類である。
生分解性プラスチックの多くは離型に難点があり成形加工上、金型製作上、様々な工夫を要する必要があった。しかしPCL系プラには従来金型のまま、ほとんど問題なく成形できるという大きな利点がある。従来品の金型を使用し材料のみ生分解性プラスチックに替えて試作するような場合、大変都合の良い材料であると言っていいだろう。PPなど汎用プラ製品の金型は多くがそのまま利用可能である。
6.材料乾燥
ポリエステルであるPCL系プラは成形前乾燥が必要で、およそ60℃前後4〜5時間程度を目安としたい
耐熱性に劣るプラスチックのため急ぎの場合でも必要以上の高温に曝すことは好ましくなく、除湿型の乾燥機があれば好ましい。成形作業自身は乾燥無しでもほとんど問題なく出来るがそのような場合、他のポリエステルと同じように成形後加水分解により強度劣化を起こす傾向がある。材料本来の性能を発揮させるためにも成形前乾燥はしっかりしておきたい。
7.材料パージ
成形後のパージ作業は一般に行われる汎用プラによるもので支障無い。知る限りでは特に仲の悪いプラスチックがある訳でもないので、PE、PP、PSなどで問題ないだろう。
次回は金型製作上の注意点について。
 
つづく
 
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