000725  6.プラスチックのお話(その5)
 
今回はプラスチックと金属との比較をしてみよう。特殊用途は別として一般的な鉄や銅合金と比べてみる。
主にプラスチックの優位性を話すこととなるが、金属に対して大意はないので念のため。
 
1.比重が小さい
金属と比較して比重の小ささはあらゆる意味で無視出来ない。同じ体積であればプラスチックの方がずっと軽い、とは誰もが承知してるだろう。通常使用する範囲において強度的、または熱的に問題とならない製品であれば、当然プラスチックの出番となっておかしくない。そして何より工業材料として、プラスチックでは形状をかなり自由に設計出来る利点がある。言い換えれば金属と異なり成形が容易ということであり、これは補強等の設計上の自由度が大きいことも示している。つまり適度な補強を施すことによって、金属同等以上の強度を保ちつつ重量を軽くする、などと言う得意技が生まれる訳である。これまで様々な金属代替えが行われたように、今後も益々そのような分野に進出していくことだろう。
もっとも、以外に思われるかも知れないが、ほとんどのプラスチックは水より重いという事実もある。数ある種類の中でも水に浮くプラスチックは、ポリエチレンやポリプロピレンなど極一部なのである。それでも比重が1.5を越えることは少なく、2を上回ることは特殊用途以外ほとんど無い。鉄や銅の約8〜9に比べれば格段に小さく、アルミの半分程度かそれ以下が普通である。
ここで軽さ=取り扱いの容易さ、も意味していることは言うまでもない。更に軽さに関連して「発泡」などという得意技も、金属にはない(例外もある)プラスチックの特徴と言っていい。軽く持ち運びやすいということは、加工面でも物流面でも大きな利点であり、取り扱いの面ではプラスチック最大の特徴と言えるものである。
2.加工費(=加工時間)の差が非常に大きい
先に述べた成形の容易さという部分である。一般に比較的小さな製品中ではコストに含まれる割合として、使用される材料価格よりも加工費が多くを占めているものである。形を作るにも削るにも製作面で金属と比較したプラスチックの利点は、その加工性の良さそのものにあると言い換えてもいい。成形とは異なるがたとえば機械加工により、鉄とプラスチックで深さ10mmずつ削る作業をしたとしよう。こんな場合、それぞれの種類や機械・工具にもよるが、一般的なフライス盤を使用したとする。これで加工時間にして少なくても4〜5倍、実際にはおそらく10倍以上の差はでるのである。
もちろん金属にもアルミや亜鉛ではダイキャスト成形などというものがあって、プラスチックの射出成形に近い形で加工可能な方法もないではない。溶かして型に流し込み形状を作り出すという加工法である。しかしやはりそこはそれ、プラスチックを溶かすよりは金属を溶かす方がずっと大変そうであろうことはご想像の通り。やはりプラスチック加工と比べれば使うエネルギーも生産性も大きな差があると言わざるを得ない。
3.着色や表面加工の自由度が高い
金や銅またはその合金を除きほとんどの金属は銀白色が普通。それはそれで美しいものであるが、着色しようと思えばどうしても二次作業として塗装をしなければならない。また金属は一般に、「めっき(注1参照)」などの表面処理無しには錆びるという弱点を持つものが多い。プラスチックではその点、材料段階で希望の色に自由な着色が可能である。何しろ金属では考えようもない透明まで選べるのだからその範囲は広い。
更に射出成形などでは金型の表面加工を施すことにより、いわゆる艶消し、皮シボ、ヘアラインなどの表面加工が成形と同時に可能となる。やはりこれらの特徴も、量産性に優れ自由なデザインで且つコストを押さえられる、プラスチックの大きな利点であろう。
4.耐薬品性が良い
貴金属の一部やステンレス系または軽金属系の特殊材料を除き、通常使用される金属は概ね耐薬品性が良くない。特に酸には侵されやすく、溶けだしたりボロボロになったりすることは承知しているだろう。いわゆる酸化による錆の発生などは最たる例である。そこで現実には、先にも挙げためっきや樹脂コーティングが活躍することとなる。昔、缶詰の内部はスズめっきが多かったが、最近は樹脂コーティングが主流とも聞いている。ここで言う樹脂とはもちろんプラスチックフィルムに他ならない。
一般にプラスチックは薬品に弱いと思われがちだが、それは普段目に付きやすい多くの筐体部分に、前回説明した非結晶性プラスチックが使用されているからと思われる。実際は酸にもアルカリにも溶剤類にもかなりの耐性を示すものが多くあり、選定に間違いなければ長期間安定した性能を発揮するものである。しかもそれらは金属と違い決して特殊という材料ではない。汎用プラスチックでもポリエチレンやポリプロピレンは耐薬品性が良好で、いわゆるポリタンクとして灯油などの燃料容器としてもお馴染みだろう。
別の言い方をすると(ちょっと乱暴だが)、一般の接着剤で接着しにくいものは耐溶剤性が良いと思っていい。つまり溶かす溶剤が無いから(もちろんまったく無いという意味ではないが)接着も難しいということになるのである。一般的な接着という行為を換言すれば「表面を侵してくっつける方法」、と言うことも出来る。先のポリエチレンなどのように液体(水も溶剤も)をはじいてしまうものは、ありふれているが接着の難しい代表選手である。中にはフライパンの表面加工でお馴染みのテフロンのような、スーパー級の耐薬品性を示すものまである。
 
注1
「めっき」は要するに使用条件に対して耐性を持つ、または装飾などを目的に金属をコーティングする訳であり、その方法により主に電解法と無電解法に区分されている(実際は他にも溶融や蒸着など色々ある)。両者の違いは要するに作業中電気を流すか流さないかであるが、電気を流さない無電解法ではプラスチックの他ガラスや石にもめっきが可能である。
尚、余談だがカタカナで「メッキ」と書くのは正しくない。確かJISではひらがな表記に統一されているはずである。漢字の「鍍金」も当て字だと思われ、厳密には正しくない(と思う)。
 
−−つづく−−
 
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