天野時計/大理石筐体置き時計
新規追加 2012年11月10日
 
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概略寸法 高さ20cm×幅35cm×厚み9cm
文字板 ペイント文字板/5インチ角形
仕 様 香箱入り同軸8日巻き(独/JUNGHANS機械使用)
時 代 昭和初期頃
 
天野時計(天野時計宝飾品株式会社)の大理石筐体置き時計8日巻きです。ドイツやフランスの機械を国産筐体に入れた高級組立時計として、この分野では良く目にする時計会社です。

天野時計は大正末〜昭和初期頃、宝飾品で培った技術を筐体に生かし、機械に独/JUNGHANS や仏/BAYARD (バイヤール、一般にはベイヤードまたはバヤール等フランス読みなので・・・・^^;^^;)を使用した高級置き時計を発売します。天野時計の六星の中に「A」のロゴは特に中・大形大理石時計では頻繁に目にすることから、昭和初期の最盛期には相当数販売されていたものと思われます。しかし、手持ち資料には名前すらなく、ネット上にも同社の情報はほとんど無いに等しい状態です。どうやら機械仕様や文字板から、ドイツ製またはフランス製として紹介されている場合がほとんどなのではないでしょうか?
天野時計の多くは文字板に「MADE IN ○○○」と機械の原産国が記されており、(故意かどうかはともかく)ドイツ製、フランス製と思わせた方が当時は高級時計としていわゆる箔が付いたとは言えそうです。
尚、知る限り置き時計に特化していたようで、他の種類を作っていたかはやはり資料がありません。

多くの種類がある大理石の中からこの時計ではグリーン系をベースに赤系の彩りを添えたデザイン製豊かな筐体に、ユンハンスの同軸8日巻き高級機械を使用しています。機械本体を除いた他の部分は金属部を含め国産と思われ、自社の得意分野を発揮しつつ上手く良い機械を見出した結果であったのでしょう。
掛け時計では特にアンソニアの機械を国産筐体に入れた時計が明治期より広く一般に普及しており、こちらはその置き時計版と言っていいでしょうか。

尚、入手時は一部筐体破損とゼンマイが巻かれた状態で動かないというジャンクでした。
 
 
入手時外観
入手時外観

パッと見はそれなりにきれいです。ツートーンの石材はカラーも美しく高級感たっぷり。

台座部左前に割れはありますが、欠片はあるので貼り付ければいいでしょう。角形風防はプラスチック製のようです。
裏側はゼンマイ巻き等の際取り外す丸蓋に、全体は別のネジ止め蓋という天野時計ではお馴染みの仕様です。裏側に直接ツマミ類が出てないだけでも、この種としては高級感を醸し出しています。真鍮部品のそれなりの黒ずみや荒れは経年の愛嬌としておきましょう。
 
機械部取り出し
機械部取り出し

裏蓋を外して現れた機械はけっこう大きな丸カバーに覆われ、品位の高い機械を想像させます。文字板周りの作りもなかなか凝っていて、悪く言えばバラすのが面倒くさそう。
ところで長穴の中に、振動サイクルの(時間の)調整レバーが無いんだけど・・・・^^;
 
筐体補修
筐体補修

濡れタオルで筐体を拭き上げ割れの補修を行います。

きれいそうに見えても経年の汚れはけっこうなものです。たばこと思われるヤニ汚れもあり、白いタオルもあっという間に真っ黒。
割れた台座部分は手製リムーバーで古い接着剤を削り取り、エポキシ系接着剤を塗って貼り合わせた後、ダンベルの重りを載せておきます。
 
保護布補修
保護布補修

底面に貼り付けてある滑り止め兼傷防止の厚布は、経年により周囲が剥がれてヨレヨレ。そこでいつもの無溶剤形合成ゴム系接着剤をヘラで塗って貼り合わせ補修しました。
 
入手時機械
入手時機械

ゼンマイを巻いても動かないという機械を、カバーなど外して確認します。

カバーを外して現れた機械は二回りくらい小さくて、良くある香箱入り同軸8日巻きゼンマイ仕様とほぼ同じ大きさです。写真では分かりにくいのですがグリスにヤニでも混じったような黒汚れが目立ち、潤滑もイマイチのようです。
中段の写真でゼンマイ入りの香箱が傾いていますが、この香箱全体はゼンマイ回しのツマミで押さえるようになっていました。軸側ではなく香箱を回してゼンマイを巻く蓄音機のような巻き方で、香箱外周にラチェットの歯が切ってあります。長穴から見えなかった調整レバーは押し込まれたように曲がっていました。
見える範囲にメーカーロゴはありませんがユンハンス製機械と思って間違いありません(同社の同じ機械を他で見ています)。下の写真で良く分かるように、2階建てのテンプ周りなど精緻な作りはさすがと思わせますね。
 
機械メンテ
機械メンテ

エアー吹き後、洗浄と軽く再注油を行います。

横着して文字板は外しませんでした。っと言うのも短針が軸に固着していて、556とか差して放置した後緩めようとしてもビクともしません。無理すると基の歯車を傷めそうだったのでやめました。
文字板側を濡らさないよう気をつけながらの洗浄&注油後、とりあえず自然に動き出し幸い致命傷もなさそうです。曲がった調整レバーを直し中点付近とし、時間もだいたいあっています。この状態なら特に弄るところも無さそう。
 
文字板
文字板

ブリキにペイントのオリジナル文字板を別のブリキベース上に載せ、6個所の爪で固定しています。

それなりの変色と針の擦れによる同心円状のスレ、2時部分に小さな剥がれが黒点として見えますが年代からすれば概ね良好です。12時下に六星に「A」のお馴染みロゴと、6時下に「MADE IN GARMANY」。この表記がドイツ製と間違われる理由ともなっていますが、上述のようにそれは機械のことを指しています。修理歴など履歴を示す書き込みはありません。
 
文字板周り組立
文字板周り組立

円筒のカバーを側面3個所でネジ留めしドーナツ状の蓋を被せます。
風防は1mm厚あまりのプラスチック製ですが、当時は角形で湾曲した凸面ガラスは製造が難しかったものと思われます。今でこそプラスチックかよーって感じですが、当時この種の材質は先端材料だったはずです。詳しい材質は不明ですが固く弾力があり、近年のスチロール製のように簡単にヒビ割れが入ることはありません。
長針を差し込みその風防と一緒に文字板枠に取り付けて組立完了です。
 
組み上げ&試運転
組み上げ&試運転

上がった機械部を筐体に元通り組み込み、左右のナットで清掃した裏蓋を留めてレストア完了!
試運転と調整の結果、週1〜2分以内の誤差としてほぼ正確に1週間以上動作し、良い時計に仕上がりました。
 
 
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