米 ANSONIA(アンソニア)/12インチ木枠文字板扉凸丸縁八角合長掛け時計
 
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概略寸法 高63cm×幅43cm×厚み11.5cm
文字板 12インチ/後貼り紙文字板(オリジナルはペイント)
仕 様 8日巻/渦ボン打ち
時 代 1870年代(明治初頭)頃
 
お馴染みアメリカ時計の名門アンソニアの12インチ大形八角です。同社でも初期に属するだろう古手掛け時計から・・・姉さん、事件です!?

アンソニアはセス・トーマスやイングラハムらと並ぶアメリカの名門で、1854年創業の古時計メーカーです。人気の古時計メーカーとしてはアメリカでもセス・トーマス、ニューヘブンに次ぐ3番目に古い創業年度であり、1929年まで有名な「HABANA(涙の滴)」型時計など数々の名品を作り上げました。中でも掛け時計、置き時計の機械に見られる梁が半円状にアーチを描いた地板はアンソニアタイプ(スタイル)とも呼ばれ、国内でも中京を中心に数々の時計メーカーにコピーされています。

この時計では文字板ガラス枠が珍しいぶっとい木枠製で、真鍮枠を見慣れている者にその存在感はさすがに目を引きます。19世紀の古手アメリカ時計なら木枠そのものはそう珍しくありませんが、これほどぶっとい枠を見ることはなかなか無いでしょう。機械も上述のアーチ形ではなくピン留め地板の初期大型機械が付きます。
 
 
入手時外観
入手時外観

筐体外観は多少のスレ等あるものの大きな損傷はなく、軽く1世紀以上経た時代物としては十分良好な方でしょう。背面に大きなラベル跡らしきものはありますが現在は残っていません。
文字板は後年の貼り替え紙文字板ながら明治期頃の古いものです。振り子室ラベルは残念ながら完全紛失。その振り子室周りは多少木組みの隙と下角の補強コマが一つ剥がれていました。また写真のような突き板剥がれが振り子室先端壁面側に少しあります。
 
掛け金等
掛け金等

掛け金は頭丸後方形の2本留め。薄く若干バネ性を持ったぺらぺらな金具で、オリジナルだと思いますがこんなの初めて!

古時計で紛失の多い文字板ガラス枠フックの留め具は残っています。
 
文字板周り
文字板周り

文字板裏面には鉛筆書きによる「昭和四年 一月九日 TK○○」と最後は読めない書き込み。他に「6 4. 4(たぶん日付)」という、ネット検索すると現存する時計店のゴム印が押されています。大正または昭和6年4月4日でしょうか?
右上写真のように2個所金具による文字板押さえがあり、古い時代でしょうが明らかに後年付けられたものです。

右下写真は表面6時下に打たれた「1870年7月5日」の特許刻印です。このような「PAT・・・・」という刻印を製造日と勘違いする方がいらっしゃいますが、あくまで特許の受理日または公布日を示すものでその日製造されたという意味ではありません。
 
入手時機械と渦ボン
入手時機械と渦ボン

木製台座により取り付けられた大形の古い機械です。地板はナット留めのように見えますが、支柱に針金を差し末端処理で巻いてるためそのように見えます(右上写真)。同じ写真で振り竿は後年の振りベラカシメ竿に交換されておりオリジナルではありません。
両ゼンマイ間の地板に「ANSONIA CLOCK Co」等の刻印。
上取付台座はネジ穴部で片側割れてるため釘を打って押さえているようです。

渦ボンは細めの五重巻き。台座には「ANSONIA CLOCK CO」ネーム入り。
 
振り子室周り補修
振り子室周り補修

乾燥反りや接着剥がれによる組木の隙やがたつき、突き板剥がれをタイトボンドで接着し、ゴムバンドでしっかり固定しておきます。
同じく剥がれた下角内面の補強コマも接着。
 
取付座補修
上取付台座補修

機械の上側台座部分は過去の補修で位置合わせのケガキ線が引かれていましたが、左ネジ穴部分で割れて効いてなく、傾かないようにか釘を打って留めていました。
そこで外した台座の古い接着剤を部分的に削り落とし、あらためて接着し直します。
バカ穴となってる背板側の穴には削った割り箸に接着剤を付け、金槌で軽く打ち込んで圧入し面一にカットして埋め戻します。
 
背板書き込み
背板の書き込み

さて、事件です!大発見か笑い話のネタとなるか?!

機械下の背板には毛筆で書き込みがあり、「明治八年 六月十九○ ○時○○町(岡崎連尺町?) 中条勇次郎」などと読み取れそうです。っが、この読みがどこまで正解かは筆書きに疎いため筆者には分かりません。

これってあの「中條勇次郎」??
まさかね〜・・・本人が「條」の字を「条」と書き違えるか? それとも通り名として使用してた? たとえば斎藤を斉藤とか文字を続けて書きやすいとか、名前中に旧漢字とか入ってると日常的に簡略化して書くことは今でも良くあること。
ちなみに、先の文字板裏にあったゴム印も中條の地元愛知県岡崎市の時計店ではある。入手先も岡崎市近傍です。
明治8年は中條17〜8才の頃。すでにその頃からアメリカ時計を研究し始めていたのか? 当時の西洋時計は大変高価で家一軒買えるなんてまことしやかに言われる中、そんな財力があったのか?
どこかに自筆署名とか残ってないかな〜 あったら筆跡鑑定とかできないかな〜 識者の見解とかも聞いてみたいな〜・・・

他に左側にはアルファベットの「N」のような記号と、その下には花押のような文字が下台座に半分隠れています。
これら書き込みは明治の「明」も花押似文字も一部台座下にあり、購入時ではなくメンテ等で機械を外した後年書かれたもののように思われます。あるいは時計研究のためとか実用以前にバラすのが目的でその際に書き込んだとか?

まあ、一番可能性高いのは後年のいたずら書きってところだけど・・・^^;^^;
 
機械表面
メンテ済機械表面

メンテと言っても経年相応の汚れがあるくらいで状態は良好。これといった異常部はなく軽く洗浄して再注油したのみです。ボン側二番車軸受けに弱い修正があります。
 
機械裏面
メンテ済機械裏面

同じく裏面側。こちらは運針側二番者j軸受けに修正があります。
表裏合わせて地板の修正はこの2個所のみと、大事に使われて来たことが分かりますね。もちろん前述の通り他の個所を含め問題箇所はありません。
 
機械取付
機械取り付け

筐体に機械を仮置きしてネジ穴位置をマーキング。その位置にφ2.5の下穴を開けておきます。再度機械を置き下穴位置にズレのないことを確認。元々付いていた木ねじはまだまだ使えそうなので再利用します。但し、先が平らに削られており、ねじ込めるようグラインダーで先を尖らせて使用しました。
壁掛けして入手時から狂っていた鉛直合わせのため、アンクル竿をわずかに曲げ修正して完了。
 
文字板・ガラス扉取付
文字板とガラス扉取り付け

左上写真で古い時代に後貼りされた紙文字板下にオリジナルらしいペイントも残ってはいそうだけど、外周部とは言えこの状況からしてまともに剥がせるとは思えずこのまま利用します。留めネジは12時を頂点に正三角形の3点留めです。

振り子室ガラスはオリジナルでしょう。金彩とかあったかもしれないけど現在は強ゆらゆら透明ガラスです。
文字板ガラスはパテ留めされたやはり強ゆらゆらガラスだけど、オリジナルかと言うには確証無し。木枠扉はかなり重く、計6本留めの蝶番を使用しています。
 
振り子と巻き鍵
振り子と巻き鍵

振り子は直径φ55.5mm、重さ62g(共に実測)。やや小さめのごく普通の振り子で、オリジナルとは思いますが Waterbury ともよく似ています。錘本体となる鋳物の外周に肉やせがあったりしてけっこういい加減な作り。

付属巻き鍵はオリジナルではないでしょう。
 
試運転
試験運転

動作上特に問題なし。
ボンの音はセストーマスほどには濁ってないけど、さりとてきれいとは言えない音色。ビーンとボーンの中間くらい。大きな羽(エアーダンパー)が付いてる機械なのに、アメリカ時計らしくせわしく鳴ります。
 
 
 
新規追加 2016年10月 9日
 
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