英工舎(鶴巻時計店)/へそ形目覚まし時計
最終更新 2012年11月10日
 
レストア後外観 TSUマーク
概略寸法 全高16cm×幅13cm×厚み7cm (持ち手リング除く)
文字板 オリジナル紙文字板/約9cm
仕 様 毎日巻き/小秒針付き/リン打ちアラーム
時 代 昭和初期頃
 
英工舎(鶴巻時計店)の昭和初期頃と思われるへそ形目覚まし時計です。右隣は同社のTSUマーク。

新潟より上京した鶴巻栄松は大正5年「鶴巻時計店」を興します。当初は販売だけでしたがやがて大正後期、現在の東京都北区滝野川に英工舎として時計製造会社を設立します。事業は順調に拡大し、戦後間もなく廃業するまで戦中を挟んで時計製造を行っています。戦後英工舎の遺伝子は現在のキャノン電子日本電産サーボなど、錚々たる大企業に引き継がれています。

この時計のように筐体上にリン(鈴=ベル)が一つ載った形の目覚ましを「へそ形」と言います。この名は明治後期、国内最初に発売された精工舎カタログ名に由来するようです。一説では人の出臍のようだからとも言われますが、真偽のほどはイマイチ定かでありません。いずれにしろ現在のカップ麺のように精工舎名がスタンダードとなり、以後愛称的にその名で呼ばれるようになったものと思われます。

英工舎の社名は筆者も初めてローマ字名で見た時思わず笑ってしまったのですが、当時すでに大企業だった「SEIKOSHA」から「S」を除いただけの「EIKOSHA」です。現在だったらまず確実に紛らわしい商標として問題となるところでしょうね。当時はまだまだおおらかだったのでしょう。この種の例は時計に限らず蓄音機など、当時の機械器具に付くロゴではたくさん見られます。「VICTOR」が「VICTORY」だったり、「COLUMBIA」が「COLUMBUS」だったり。
とは言え、英工舎最盛期の昭和初期頃には多くの時計を世に送り出し、現在でもTSUマークは掛け時計や置き時計でよく見かけるお馴染みの商標です。
 
 
入手時表面 入手時裏面
入手時状態
この種の時計で錆び錆びなのはお馴染み。これくらいならまあ普通レベルでしょう。
大概、側が歪んでいたり落としたりしたつぶれがあったりします。リンは焼きが入ってるためか、ほとんどの時計でめっきが剥げ剥げで錆びてるのもまたお馴染み。これくらいの錆ならまだまだマシな方です。
状態はリンが鳴らず時計もすぐ止まっちゃうと言うジャンクでの入手です。確かに揺すると少し動くけどすぐ止まってしまいます。目覚まし合わせのツマミは紛失していて、これも良くあること。2つある小針の上はそのリン(目覚まし)時間を設定する目安針と呼ばれています。下は秒針です。
 
入手時機械1 入手時機械2
入手時機械
ツマミと裏蓋を外して現れた機械はちょっと小さめの比較的新しそうな機械でした。全体に埃や鉄製部分に錆はあるもののテンプのヒゲゼンマイ等は大丈夫です。どうやら致命的な問題はなさそう。ゼンマイも両方とも大丈夫でした。地板に刻印はなく毎日巻きの無名機械です。前オーナーが動かそうとしたのか、右写真のように軸受け(ホゾ穴)の数カ所に油が差してありました。
 
全部品 文字板ロゴアップ
部品と文字板
とにかくレストアのため一旦バラします。
実は元々メーカー不明で入手した時計だったのですが、文字板のリン目安針に隠れていたロゴを発見し英工舎製だと分かりました。お馴染み鶴巻の頭文字「TSU」をデザインしたと思われるロゴが、独楽のような中にあります。英工舎のこのようなロゴは筆者はこの時計ではじめて見ました。
 
短針針軸修理1 短針針軸修理2
短針歯車修理
バラす際短針が軸に固着していて、半ば無理矢理引き抜くと歯車とのカシメ部が外れてしまいました・・・・^^;
そこできれいに洗浄した後半田付けで付け直しておきます。短針はこのパイプの先端に差し込まれます。
 
再組立1 再組立2
再組立
機械を洗浄した後注油すると、何事もなかったように動き出しました。単純に潤滑不足が動作不良の原因だったようです。短針歯車修理のため外した他の歯車2個と一緒に、計3個の歯車を元通り組み直します。右写真で銀色のピンはリン動作を司る重要部品ですが、外す際切断したので新たにピアノ線を加工し作り替えています。
この種の時計ではよく針を回すとリン目安針まで一緒に回ってしまうことがありますが、そのような時計ではこの部分の固着や動作異常などないか確認してみましょう。
 
レストア完了機械 文字板枠組み付け
レストア終了機械
すっかりきれいになりました。
組み立てはまず文字板枠を取り付けます。
 
文字板&針組み付け 筐体への組み付け
組み上げ
続いて文字板と針を取り付けて機械回りのレストア終了。

この種の目覚まし時計の場合、設定時間通りにリンが鳴るよう針の差し込みにはルールがあります。
まず秒針は適当に差し込んでかまいません。裏の針廻しツマミをゆっくり回してリンが動作する時間に合わせます。目安針をここで差し込みますが3時とか9時とか分かりやすい時間に差し込み、その指示時間と同じ3時とか9時に合わせて短針を差し込みます。再度12時間分針を回して設定通りにリン動作が始まるか確認し、最後に目安針の指示時間に微調整しながら長針を差し込んで完了です。良く目安針の指示とリン鳴り時間(短針の位置)が合っていない目覚ましがありますが、こうして合わせれば簡単に直ります。

とは言えこの種の目覚ましでは、構造上10分〜15分程度の誤差は正常の範囲と大目に見てやって下さいね。現在のように分単位秒単位で鳴らすことは出来ません。
仕上げに金ブラシでブラッシング後錆止めワックスで磨いたリンと一緒に、同じく清掃した筐体や足等と機械を固定します。この後裏蓋とツマミを付けてレストア完了です。
 
新規追加 2008年12月25日
 
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