掛け時計(柱時計)の移動に伴う振り子の錘(おもり)調整について
 
「機械式振り子時計(以下、時計と表記)を移動させ進み・遅れが気になる時は、錘の上げ下げで調整してください」などと、筆者自身言いっ放しのまま終わりにしちゃうことがほとんどでした。でも「なんで?」と素朴な疑問を感じる方も多いかもしれません。錘の上げ下げで時間が変化することはなんとなく分かってても、一度合わせたはずの時計なのに移動させただけで狂いが出るとはどういうこと?

一般的な答えとしては、「移動を伴った場合、振り子の振動周期(=単位時間当たりの振動数)が変化しちゃうから合わせる必要がある」ということにになるのでしょうがなんだかわかりにくいのも確かで、この項では筆者なりになぜそうなるのかなるべく噛み砕いて説明を試みました。

以下は時計の左右・前後の傾き等正しく掛けられていることを前提としてのお話です。
また、振り子時計であれば置き時計でも同じ現象が起きることとなります。
 
はじめに時計の機械は様々にありますが、いずれも振り子が何回振れれば(何回振動すれば)分針が1分進み、その60倍が1時間となり、更に1時間の12倍で時針一周、その時針が二周すれば1日と決められています(まれに24時間時計もあります)。
但し個々の機械で1分間に何回振れるかには規定がなく、100回でも10回でもかまいません。59回とか42.7回とか中途半端な回数でも、その回数で分針が1分だけ動くように歯車が組まれていれば何ら問題ありません。そしてその60倍、12倍をそれぞれ1時間や半日とすればいいだけのことです。一般に小型時計は1分間当たりの振動数が多く、大形時計は少ないというのは大概ご存じでしょう。
 
この正確な振動数を生み出すためガリレオの発見した等時性、つまり「振り子において支点と錘までの長さが一定なら振幅や錘の重さには関係なく一定周期で振れる(注1)」ことをより所(基準)としています。逆に言うと「支点から錘までの長さを変えれば周期が変わる」と言うことでもあり、時計では周期によって変わる振動回数がそれぞれの機械により先の話のように1分間、1時間、半日に何回と決められている訳です。

時計を合わせるとは 『錘の上げ下げで支点から錘までの長さを変え(=周期を変え)、その決められた回数振れるよう合わせる』 ということです。

但しここには前提条件があり、同じ場所(=重力が一定)でないといけません。
また等時性そのものは真空中で摩擦等の抵抗もない理想空間(言うなれば机上)での話しであり、空気抵抗やら摩擦やら風だってあるかもしれない大気中ではだんだん弱まってしまいます。したがってその振動を助けるべく動力源が必要となり、それが巻き上げられたゼンマイが緩んでいく際の駆動力であったり電気動力などとなる訳ですね。
 
振り子の振動
 
さてそこで本題である時計を掛けた場所の違いにより誤差の起こる原因ですが、ここでは細かな要因は除くとして重力に絞って考えます。

振り子の振動とは、たとえば右に振り切った一瞬の静止状態から錘が重力に引かれ、落下するのと同じように左へ向きを反転し振動の中心に向かって落ちていきます。惰性で振動中心を通り過ぎると今度は左いっぱいの静止状態で向きを変え、また振動中心に向かって落ちていきこの繰り返しが振り子の振動となる訳です。
この落ちていく(静止状態から動き出す)際にそれまでの振動が空気抵抗や摩擦で弱まらないようちょっと後押ししてやるのが、先のゼンマイ駆動力であり電気動力となります。
特にゼンマイの場合、巻き上げ時と緩んだ状態ではこのちょっとの後押しにも力の差が生じ、誤差の要因ややがて停止に至る原因ともなっています。細かく言えば電気(電池)時計だって、新しい電池か使い古しの電池かで能力差があるのは当然ですよね。
 
ところで地球上の重力はどこでも一定ではありません。重力は地球中心から離れるほど小さく近づくほど大きくなります。海面上より山岳部の方がわずかながらも中心からの距離が離れ重力が小さいと言うことです。

また地球は自転していますので、回転軸付近となる北極や南極と異なり赤道付近ではけっこうな遠心力を受けています。その遠心力によりパッと見丸く見える地球も実際は少し南北に潰れていて、その分、半径だって北極や南極方向より赤道方向の方が大きくなっています。つまり赤道付近では距離と遠心力との双方で、重力が小さくなる方向へ影響を受けてることになるのです。
驚かれるかもしれませんが赤道付近では秒速約463m(地球一周約4万km/1日86400秒)という、音速を遙かに超える猛スピードで回転しています。半径約6400kmと曲率は小さいのですがそのスピード故、距離の増加に加え遠心力も無視できないのです。

笑い話にスポーツで一番いい記録を出したいと思ったら赤道付近の高地、たとえばキリマンジャロの山頂付近とかが一番有利だと。大気も薄く空気抵抗も小さいしね! アンデスやチベットの高地民族から選抜し専門訓練をしてキリマンジャロで競技会を行えば、もの凄い記録が出るかもしれません。いや、間違いなく出るでしょう。
ボリビアのラパスとかで誰かそういう競技会企画しないかなー・・・・昔、高地で行われたメキシコオリンピックで大記録が出たりしましたよね。
 
さて本題に戻り、重力の大きな場所では落ちるのも早いから時計は進み傾向となり、重力の小さい場所では遅れ傾向となります。いわゆる先進国の中で日本は一番赤道寄りに位置しており、欧米に比べ相対的に重力は小さいと言えます。したがって欧米の時計を日本に持ち込むと重力差による遅れが生じ、そのため錘をけっこう上げて進ませないと時間が合いません。よくドイツやアメリカの時計で不格好なほど錘の上がった時計を見かけることはありませんか? もちろん重力差ばかりが原因ではありませんが、それらの一因となってることは確かです。

っと言うことで、南北を基準に日本で言うと北海道は重力が大きく沖縄は小さい。土地(標高)で言うと海岸付近は大きくて山岳部では小さい。一般人が自由往来できる範囲でおそらく日本で一番重力の大きい場所は北海道の宗谷岬で、一番小さい場所は西日本にあまり高い山はないことからやっぱり富士山山頂か? あるいは宮之浦岳山頂、波照間島のいずれか。
 
ちなみに、
1分間に60回振動すべき振り子が59.9回になったとしましょう。1時間で本来3600回振動すべきところ、59.9回×60分=3594回となります。これは1時間に約6秒遅れたこととなり1日では144秒と実に2分半近く遅れてしまいます。更に59.99回までほとんど究極まで微調整しそれってもう60回でいいでしょ!と思っても、これでまだ1日約15秒、1週間で2分近く遅れてしまうのです。錘の上げ下げによる調整がいかに微妙なものか分かるでしょう。
このことは設置場所を変えることによるわずかな重力変化も、けっこう大きく影響することを意味しています。
 
− 結論 −

1.それまで使っていた場所より北で使用する場合、重力が大きく進み加減となりますので錘を下げる必要があります。南で使用する場合はその逆。

2.それまで使っていた場所より標高の低い所で使用する場合、重力が大きく進み加減となりますので錘を下げる必要があります。高い所で使用する場合はその逆。

3.相対的に 1 と 2 のどちらの影響が大きいかにより結果は微妙に異なることとなります。
 
 
注1
一般に時計のような単純な振り子で等時性が成り立ち実用となるのは、支点の中心角にして数度〜精々10度ちょっとくらいまでの範囲です。たとえば45度とか60度とか大きく揺れる振り子と、5度程度の小さく揺れる振り子では長さは同じでも大きく周期が異なり同一には語れません。元気に揺れる振り子は頼もしく見えますが、精度的にどうかというと疑わしいかもしれませんね。
 
 
一応厳格な方のために断っておきますが、筆者の話しは他の項同様科学的正確性よりもわかりやすさに重きを置いていますので念のため!
但し明らかな間違いがありましたならご指摘いただけますとうれしく思います。だからって直すかどうかは筆者の判断に任せていただきますが・・・・^^;^^;
 
 
最終更新 2016年12月17日
新規追加 2016年11月 3日
 
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