000701  5.プラスチックのお話(その4)
 
前回に続いて今回は非結晶性(=非晶性又は非晶質)プラスチックについて話してみよう。
 
非結晶性とはその言葉どおり結晶を持たない、つまり「アモルファス」のことである。アモルファスと言えば最近は非晶質金属(アモルファス金属)や非晶質半導体等々、先端分野でも花形に位置する素材である。
ではそこで、身近でアモルファスの代表は何だろうと探してみる。これが実は「ガラス」なのである。そう、あのどこにでもあるガラスなのだ。
 
非結晶性プラスチックとは、
分子配列(ここで言う配列とは単なる並びという意味。以下同じ)に規則性のない状態で固化するプラスチックの総称である。プラスチック全体では少数派であるが、決して珍しいという訳ではない。結晶性プラスチックが成形条件の差により時に大きく変化することがあるのと異なり、比較的その影響も小さく安定した成形が可能という長所がある。もちろん、良い製品を連続して得るには一定条件の下での成形が好ましいことは言うまでもないが。
非結晶性プラスチックは下に述べる特徴により、いわゆる箱物に使用されることが多い。板物と言ってもいいだろう。たとえばケース類、外装キャビネット類、食器類等がそれである。換言すれば大物が得意とも言えるかもしれない。普段生活の場で目にする大型成形品と言えばまず家電品があるだろう。今、私の目に入る範囲で探せば、TV、CDケース、電話機、掃除機等の外装プラスチックは大概この仲間である。更に今みなさんが目にしているディスプレイ、キーボード、プリンタ等のプラスチック部もほとんどはこの仲間である。
 
さて、前回同様非結晶性プラスチックの共通した特徴ということになるが、これはみなさんも想像の通り結晶性プラスチックと相反する部分が多い。
 
(1)耐薬品性に劣るものが多い。
CDやDVDの表面が汚れてしまった時、間違っても溶剤の類で拭いてはならない。時々中古CDで見かけるのだが、キズとは違い表面の異常に曇った(←これもキズには違いないが)ディスクに当たることがある。これらディスクの材質は普通ポリカーボネートであり、これは非結晶性エンプラの代表なのである。ディスク表面の汚れをとる場合ほんとは水が一番いいのだが、やはり乾燥を待つのにちょっと時間がかかるし水滴の跡が残りやすい。そこで溶剤とまではいかなくてもアルコールあたりが活躍することとなる。このような場合エチルアルコール(エタノール)で素早く拭き取るようにしたい。同じアルコールでも燃料用のメチルアルコール(メタノール)はちょっと???なので、使わない方がいいかもしれない。但し、LDなど表面をコーティングしているディスクの一部ではそれでも曇ってしまう恐れが大なので、必ず支障の少ないレーベル面や周縁部で試してからにしよう。おそらく先の曇ったディスクは確認せずに溶剤類などで拭いてしまったものだろう。尚、レーベル面はエチルアルコールでも溶け出す印刷があるので、曇らなくても特に素早く拭き取ることが望ましい。
前述の例として上げた各種外装キャビネット類も、まったく同様である。よく注意書きに「・・・中性洗剤を含ませた固く絞った布で拭き、溶剤等は使わないでください。」などとあるのはこのことを言っている。最悪の場合いとも簡単にヒビ割れや溶解を生じてしまうので、この種の扱いにはくれぐれもご注意願いたい。
(2)成形時の収縮が小さい。
非結晶性プラスチックの成形収縮率はおよそ0.2〜0.5%程度と、結晶性プラスチックに比べ格段に小さい。これは大型の製品でも寸法誤差が小さいことを意味している。大きくてもバラツキの少ない製品を提供出来るということだ。キャビネット類に使用される理由の一つはこんなところにある。反面、製品形状や金型構造、精度等によっては離型が難しくなることもある。つまり成形品を金型から取り出しづらくなる場合があるということだ。
(3)融点がはっきりしない。
プラスチック分子の配列に規則性がないということは熱をかけた場合、分子通しのカラミが徐々に緩くなっていくことを示している。つまり温度が上がってくるとジンワリと柔らかくなり、更に上がるといつの間にか液体状になるのである。結晶性プラスチックでは固く結びついた結晶格子を破るのに特定の温度があり、それが融点となる。しかし、元々そのようなものを持たない非結晶性プラスチックでは、はっきりした融点を決めにくいということなのだ。そこで融点の替わりに軟化温度(他に似たような指標として流動温度、転移温度、ガラス転移点など)なるものを使用することもある。換言すれば、最初にアモルファスとして例に挙げたガラスや非結晶性プラスチックは、「非常に粘り気を持った液体である」という言い方も出来るのである。そしてガラスと同じく非結晶性プラスチックは温度の上昇と流動性が比例する関係にあり、温度が高いほど成形時の流動性は増していく(当たり前と言えば当たり前だが)のである。つまり、前回の結晶性プラスチックに比較し、流動の温度依存性が強いということになる。
(4)耐摩耗性に劣る。
プラスチック表面も内部もほぼ均一で特に緻密な構造を持たないため、摩耗に対してはどうしても弱い。プラスチックどうしを擦り併せるとやがて粉が出てきたりして、埃を嫌うような精密機器の機構部品としては適さない。
(5)その他
a.充填材の効果
ガラス繊維等の混合で強度や耐熱性はアップするが、結晶性プラスチックほど顕著なものではない。
b.透明性プラスチックが多い。
下記の具体例でもABSとPPE以外は透明性プラスチックである。最近はABSでも透明性グレードが開発されている。
 
今回も最後に具体例を上げておく。
汎用プラでは、ポリスチレン(スチロール)、ABS、AS、アクリル等
エンプラでは、ポリカーボネート、PPE等
 
−−つづく−−
 
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