VICTOR/Victrola J1-71卓上蓄音機
最終更新 2009年 2月 1日
 
Victrola J1-71
 
VICTOR/Victrola(ビクトローラ)卓上蓄音機中の1台。卓上機シリーズ中では中級機に位置する。昭和10年頃の販売価格は65円。
当時のVictrola卓上機シリーズは最上級機「90シリーズ」から番号が若くなるほど廉価となり、71は中級機となる。年代は昭和初期(1930年代頃)にあたり、蓄音機の歴史の中でも全盛を極めた頃に属する。すでに軽く半世紀以上は経ってる訳であるが、シリーズを通してベストセラーを続けたので状態はともかく残存数は決して少なくない。
そんな71だが、1丁ゼンマイとはいえ機械は上級機譲りであり、サウンドボックスも上級機同様の「VICTOR ORTHOPHONIC (ビクター・オルソフォニック)」であるところが嬉しい。さすがにホーン形状は合板平板の組み合わせで作られ、90シリーズのような曲面を多用したリエントラントホーンなどと言う訳にはいかない。
この70シリーズの他50シリーズなどよく見かけるので、探すのは比較的容易だろう。お奨めの卓上蓄音機である。
主な仕様(自己調べ)
筐 体 実測/縦(奥行き)41.5cm×幅45cm×高さ34cm  開口時高さ約61cm  重量約13kg
ターンテーブル 12インチ(約30cm)
機 械 1丁(単)ゼンマイ
サウンドボックス VICTOR ORTHOPHONIC(日本ビクター製)
ホーン  木工(合板製)折り曲げホーン
時 代 昭和初期
その他 オートスタート&ストップ付き/手動ストップなし
 
 
入手時状態
入手時状態

外観は内外共全体に埃にまみれ、塗装の変色・ムラ・小キズなど多数。目立つところではフロントグリルの×型化粧板の破損、サランネットの劣化穴あきなど。
機能的に機械は大きな問題なさそうだったが、ターンテーブルの回転は明らかに速く調整範囲を超えていた。またアームの動きに抵抗と引っ掛かりがあり、オートスタート・ストップも動きがぎこちなく潤滑不足を伺わせる。
上蓋の開け閉めもかなり固く、ギーっという異音をたててこちらも潤滑不足は明らか。
サウンドボックスはパッと見問題なさそう。
 
入手時操作パネル
入手時操作パネル状態

ご覧のような埃まみれ。
パッと見致命的な傷みはなさそう。ご多分に漏れず針も転がっていたりする。右下のスピードアジャスターは遅い側へいっぱいまで締め込んであったが、前述のように明らかに回転スピードが早い。
筆者が入手するものは大概こんなもの。って言うか、これはかなりいい方・・・・^^;
 
アームとオート機構
アームとオート機構

この機種には手動ストッパーは付かず、ターンテーブルの回転はオート機構のみで制御される。
ビクター独自のレコード終端でアームがスッと流れるのを検知してストッパーを働かせる。しかし、必ずしもレコードが対応しているものばかりでなく汎用性・信頼性はイマイチ。良く考えられたメカではあるものの、調整や潤滑が悪いとストップ動作間際にカタカタ音をたてたり、終盤の演奏中に止まっちゃったり・・・・^^;
とは言え、一般使用にもさほど問題とはならないのでご安心を。
ストップ方法は機械の回転軸を止めるのではなく、左画像で軸付近に延びるアームがターンテーブル内側のカムをロックして止める。
 
内蔵木製ホーン
内蔵木製ホーン

アームからの受けとなる縦に走る角穴と、6mm厚平板合板の組み合わせで作られた横に走る部分とでホーンを形作る。上から見える大きな板は内部で黒線のように仕切られホーンを形成している。
アームからの音は垂直に落ちてから赤矢印のように導かれ、ホーン効果により増幅され前面から放出されることとなる。
画像の挿絵では単純化しているが、アームから垂直に落ちる間も、横に走る間もエクスポネンシャル(指数関数)形状に則り断面積が広がっている。
 
垂直ホーン修復前 垂直ホーン修復後
アーム受け(垂直ホーン)部分

アームの付く操作パネル面との密着を図るため、口にはコルクの薄板が張られている。長年の密着によりコルクは板に強力に貼り付き、やむを得ず剥がしながらバラしたため破損させてしまった・・・・^^;
っで、替わりに2mm厚の板ゴムを切ってガスケットとして使用。尚、操作パネルとこの垂直のホーンとは木ネジ3本(右写真のゴムの切り欠き2個所と左側1個所)により固定され密着が保たれている。操作パネルを外す時、アームベースも外さないと開けられないので注意。
前述のように、この垂直に走る間も画像の開口部から下に向かってちゃんと断面積が徐々に広がっている。こういった一つ一つの真面目な作りがうれしいんだよね。
 
前面グリル修復前 前面グリル修復後
フロントグリル

この種のフロントグリルには凝った模様をあしらったものも多いが、経年の収縮や合板の接着剥がれにより破損したりヒビ割れたものが多い。この機種でも×部分がしっかり残っているのは稀で、程度の差こそあれ破損しているものがほとんど。このセットも左はかろうじて残っていたが、右は完全に破損紛失。ここでは修復不能と判断しきれいに取り去った。筆者は個人的にシンプルなものを好むので、こちらの方がお気に入り。
また柱の横割れも良くあることで、左柱の修復は内側から接着している。
 
1丁ゼンマイ機械 機械取付面
1丁ゼンマイ機械

他シリーズを含めVictrola共通の1丁ゼンマイ機械。後年2丁ゼンマイ化された機種もある。
香箱には幅広・厚めの強力なゼンマイが入る。シンプル且つ堅牢でありながら小型軽量とよく考えられた機械で、ゼンマイの巻き取りも効率よく軸を廻すため快適。
右写真で赤い防振ゴムはご多分に漏れず溶けてしまい、現状まったく用をなしてない。機械左の突起部はクランク(ハンドル)の差し込み口。横にある部品は外したスピードアジャスターのネジで、上に出ている棒を押して回転スピードを調整する。
 
自作ゴムダンパー 自作ゴムダンパー2
自作ゴムダンパー

5mm厚の市販板ゴムを加工して使用。
もう少し軟らかめのゴムの方がいいのだが、なかなか固さやサイズのあったものが無い。形を変えた1mm厚ゴムを数枚ラミネートするとか、工夫すれば防振対策も上がるだろう。尚、新たにスプリングワッシャーを加えている。
 
スピードアジャスター/オリジナル状態 M6六角穴付きボルト加工品 手作り部品嵌合状態
スピードアジャスター部

元々入手時点で回転スピードが速くアジャスターの調整範囲を超えていたが、上記の5mm厚板ゴムにより機械全体がこれまでより2〜3mm下がりなお間隔が開いてしまった。確認すると機械側に問題は無さそうなのでステーの曲げなど無理な修正は行わず、替わりにM6六角穴付きボルトを加工してアジャスターのピンに嵌め込む。思惑通り結果はバッチシ!
この種のゴム交換をした場合、他の部品交換がなくても大概スピード調整が必要となるので念のため。また、機械が下がると言うことはターンテーブルも下がることとなるので、オート機構や他部品との当たりが起きていないか確認する。当たりがある場合ゴムの厚み調整や、機械取付ネジの締め付け調整が必要となる。
 
アーム VICTOR ORTHOPHONICサウンドボックス
アームとサウンドボックス

アーム、サウンドボックス共シリーズ共通(仕上げなど細かな違いはある)。
アームベース、サウンドボックス共、当時のダイキャスト技術の未熟さからか多くでヒビ割れがみられ、入手時は注意を要する。このセットでもサウンドボックスはいい状態であったが、アームベース部分は上写真のようにヒビ割れが酷い。幸いヒビ割れは表面に留まりそれなりの強度も保っていたので現状のまま使用しているが、いずれコーティングなど処理が必要となるだろう。回転部分は分解グリスアップ済。尚、浸透性の油など吹くとヒビ割れに入り込み割れを助長するとの説もあるが、真偽のほどは未確認。
サウンドボックスのアームとの嵌合径は実測φ19.9mm(金属部内径)で、ビクター以外ではあまり汎用性がない。
 
サウンドボックス軸受けのOリング サウンドボックス軸受けのベアリング
サウンドボックス軸受け

VICTOR ORTHOPHONICサウンドボックスの軸受けは片側8個の小ベアリングとOリングで受けている。多くの場合左画像のようにOリングが劣化しており交換が必要。ホームセンターなどでサイズの合ったOリングがあればいいが、無ければ丸断面のゴム紐など探して合わせる。苦し紛れではあるが劣化したまま使うよりは数段マシだろう。分解した場合グリスアップを忘れずに行う。
 
レストア後の操作パネル
レストア完了した操作パネル

すっかりきれいになったパネル面 (^o^)
かなりしつこいグリス汚れなどあったが、油は油で溶かすのが原則。その後、固く絞った濡れタオルによる水拭き後、丁寧にワックス掛けして完了。すっかり輝きが蘇った。
機構部分ではオート機構も外してメンテ済。上蓋開け閉めのステーも注油整備。両方ともすっかり滑らかな動きとなって気持ちいい。
 
試聴
試聴

このサウンドボックスは朗々とした明るく大きな鳴りっぷりの良さが特徴で、このセットでもまさにその通りの音だった。
ビッグバンドによるスイングやボーカルなど鳴らしたら最良のサウンドボックスだろう。
 
新規追加 2008年 5月 4日
 
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