蓄音機/取り扱いと注意
参照 : 各部名称
 
1.用意と針セット 

蓋付きの蓄音機では開けてそれぞれの機種に従い固定します。卓上の高級機やポータブル機では鍵の付くものもあります。通常は開けただけで自動的に固定されるものがほとんどでしょう。

サウンドボックスの針口に針を(基本的には)止まるまで差し込み、留めネジで適度に締め込み固定します。針がぐらつかないことを確認してOK。また特殊なものではクリップのように挟むタイプもあります。
尚、上記で「基本的には」とわざわざ注記しましたが、サウンドボックスや針の種類によっては留めネジが先細り針のテーパー部に掛かりぐらつきやすくなることがあります。そのような時はストレート部で固定するよう、針を少し引き出した位置で締め込んだ方がいいでしょう。

留めネジは細いネジなので、締め過ぎてネジをなめないよう注意。且つ、緩すぎて針の固定が不安定でもいけません。慣れると普通に出来るようになります。

参照⇒動作原理/サウンドボックス

針には一般的な鉄針の他、竹針やソーン(サボテンのトゲ)針などがあります。いずれもレコード1面1針が基本ですが、竹針やソーン針は専用鋏やヤスリで削って何度も使うことが可能です。
但し、レコードの状態が悪くあまり惜しくない場合など、筆者は鉄針で2〜3面程度かけることもあります。
針の種類
上写真は左から、鉄針、竹針、ソーン針。
音量調節のない蓄音機では針の種類や太さによって調節します。

鉄針は概ね細、中、太と3種類あり、細いものほど音量小さな再生音となります。蓄音機のレコード再生にも忠実性にこだわる方は太めの針がいいでしょうが、反面重い針圧と相まってサウンドボックスとのバランスや相性等よほど調整されたセットでなければレコードを傷めやすいことも確かです。細い針ほどしなりやすく忠実性には劣りますがナローな聴きやすい音になると言えそうです。レコードに対しても細針の方が優しいとは思いますが、しなるが故の共振とか考えると一概に断定はできません。
上記写真はもっとも一般的な中針です。

竹針は正三角柱に削った竹を斜めにカットし、その尖った先端を針として使用します。音量は小さいもののコンデンサースピーカで聴いたような独特の優しく暖かみのある音になり、スクラッチノイズも目立たなくなります。鉄針と違ってレコードを痛めることも少なく、これしか使わないというマニアも多いようです。写真の竹針は電蓄のカートリッジでも使えるように銜え代部分が円柱状に加工してありますが、蓄音機では正三角柱のままの方が一般的です。

ソーン針はこれも独特の音色で、音量は鉄針より小さめながらその固さからかどこか芯があるように感じられます。材料は西部劇で良く出てくる大きな柱サボテンのトゲですが、ワシントン条約により輸出入が出来なくなり現代では入手も難しいでしょう。したがって価格も高くあまり一般的とは言えずヘビーマニア向け!?

ところでみなさん、近衛柱というサボテンを御存知ですか?・・・・サボテン針でも作ろうか!? 
鉄針各種
上は様々な鉄針です。左から3番目4番目あたりが標準的な中針(中音)となります。太さ長さが変わったり、同じ太さでも先端へのテーパー(細り方)が変わったりしています。
ちなみに一番大きな音が出るのはどれでしょう?
正解は右から2番目の針で、太く短く、テーパーのきつい針がそれです。
 
余談(私見)ですが、

鉄針に比べ竹針はレコードを傷めるという意見もあります。

柔らかい竹針は削れやすく、1回のレコードトレースで肉眼でもはっきり分かるほどすり減ります。特にレコードの状態が悪く竹針の品質もイマイチだったりするとその程度によっては両隣の音溝からも影響を受け、真ん中が膨らんだ逆W形に削れ音のセパレーション不良(ステレオではなく左右両隣の音溝音を拾っちゃう)を招くほどです。そのような状態は確かに好ましいとは言えませんし針先の削れを助長する要因ともなるでしょう。当然レコード上はもちろん音溝にもその削れカスが残り、それらが回を追う毎に音溝やレコード面を傷めると言うことのようです。

しかし、削れるという意味では程度の差こそあれ鉄針だって同じで、だからこそ「1面1トレースで交換」と言われる訳です。筆者は鉄針の削れカスの方が量は少なくてもレコードに対してはたちが悪いと考えています。鉄針は針金のような軟鉄と違い焼き入れされていますので、その削れカスはレコードに対して硬い磨き粉と同じです。残る量云々よりソーン針を含む植物粉と焼き入れされた鉄粉と、どちらがより音溝を傷めるかは申すまでもないでしょう。

ちなみに昔からあるネル状のレコードクリーナーで拭いてもそれらを取りきるのは困難です。残るものである以上やはり鉄粉の方が分が悪いように思います。元々その種のクリーナーはオーディオカートリッジのダイヤモンドやサファイヤ針の削れなんて無いものと無視されてるでしょうし、音溝内まで清掃なんてメーカーさんは謳うでしょうが現実的な効果のほどは疑問です。特にLP時代以降では、塩ビ盤特有の静電気等による目に見える埃や綿ゴミを清掃するのが主眼と思っていいでしょう。
 
 
2.ゼンマイ巻き

ゼンマイ巻き用のクランクは大きく分けてねじ込み式と差し込み式があります。ねじ込み式は所定の位置に差し込んで回せばやがて先端のネジが締まりゼンマイを巻き始めます。差し込み式はクランクを差し込んで左右に軽く揺するとロックする位置がありますので、そこからゼンマイを巻き始めます。
ゼンマイはその機種により固有の最大巻き数があり、その数回手前を使用最大巻き数としてそこまでゼンマイを巻き取ります。

下記5項の方法でその機種固有のゼンマイ最大巻き数を確認後は、その数回手前を限度とし、それ以上巻いてはいけません。
蓄音機のゼンマイは一般に香箱(こうばこ)と呼ばれる円筒形の容器に一方がその香箱に固定され、もう一方が軸に巻き取られます。この時巻きすぎると香箱側の固定部が毎回変形を強いられ、やがて金属疲労により切れてしまう原因となります。ゼンマイが切れる場所の多くはこの香箱固定部付近か、曲げの曲率が大きい巻き取り軸付近となります。余程焼き入れ状態の悪いゼンマイでなければ、中ほどから切れることはそうはありません。下図の良い巻き状態で使用し、使用後は緩んだ状態で保管することで無用な負荷を避けられ、ゼンマイ寿命は格段にアップします。
卓上型、ポータブル型蓄音機のほとんどは1丁ゼンマイまたは2丁ゼンマイ(ゼンマイの数は昔から何丁と数えます)ですが、基本的に同様のことが言えますのでいずれにしろ最後まで巻き締めない方が賢明です。
尚、目一杯巻いても曲がりが生じないよう香箱側の固定部が多少振れるよう考案されたゼンマイや、あらかじめ弱い曲げを入れたゼンマイもあります。

また、一般に2丁ゼンマイでもかけられる時間は長くても10分程度が天です。それはレコードにして10インチ盤(25cm盤)3面程度まで。普通は2面保つかどうかくらいでしょうか。したがって何枚ものレコードを聴く場合途中でゼンマイの巻き足しが必要になります。下記の良い巻き状態の時、手に感じるクランクの重さを良く覚えておきましょう。慣れればどれくらいが限度か手の感覚でも普通に分かるようになります。
ゼンマイ状態図
同じようにゼンマイを使う昔の時計にも同様のことが言えますが、時計の場合香箱入りのゼンマイは主にドイツ製や高級機に限られます。一般の掛け時計や置き時計では香箱固定部に相当する部分がポストに巻き付き回動自在となっており、巻ききっても即問題となることはありません。
もちろんいずれの場合も多少余裕を持って巻く方が、ゼンマイのためには寿命アップに繋がるとは思います。

ちなみに、鋭い方は気づかれたと思いますが、香箱入りのゼンマイでは緩む時に香箱側が軸の回りを回転します。したがって駆動ギャーは香箱に固定されているか一体となっているのが普通です。
対して一般のゼンマイが緩む時は軸側が回転します。更に蓄音機では一般に軸に繋がった香箱径よりやや大きなギャーをクランクで回してゼンマイを巻きますが、時計では香箱の有無にかかわらずいずれの場合も軸にカギを差し込んでゼンマイを巻くのが普通です。
尚、時計では単にゼンマイカバーと言う意味の香箱もあります。それは蓄音機の機械に比べ構造的に複雑で弱い時計ではゼンマイが切れた際、周りの部品を傷めないことを目的とすることもあるからです。

蓄音機では数分という短時間でゼンマイが緩み、且つ香箱が軸の回りを回転しながら外側からほどけるようにストレス無く素直に緩みます。それでも緩む途中でガタン!などと音がしたり、酷い時にはその振動で針飛びなど起こすことがあります。これは緩む際のゼンマイ板面の滑りが悪くなり、ある限界を超えた時一瞬に緩もうとするための音です。あまり神経質になる必要はありませんが、気になるようでしたら酷くならないうちに香箱内をメンテした方がいいでしょう。

尚、筆者の私見ですが、香箱内で使用するのにゲル状(糊状)のグリスは避けた方が賢明です。その種のグリスは新しいうちはよく効くものの、古くなりオイル分が抜けるとどうしても固まりやすくなります。かえってそれによりゼンマイ板面が貼り付いたり、緩む時の抵抗や障害をもたらし異音発生の原因となることが多々あるのです。前述の香箱など分解すると大概そのような状況になっています。毎日のように使用したりメンテを怠らない方はともかく、週一くらいの動作なら多少保ちは落ちますが上質の機械オイルで十分です。高温高湿など余程保存状態が悪くなければ、経験上それでも2〜3年は問題ないでしょう。

機械オイルを薦める理由はもう一つあります。それは香箱をばらさなくても多くの場合隙間から注入できる点です。ゼンマイ切れの場合は分解作業も致し方ないとして、通常のメンテ時に一々香箱をバラすのはなかなか面倒なものです。オイルだったら通常の注油と一緒に出来ますからね。

もう一つついでに、一般の蓄音機は少なくても50回以上、多いものでは100回以上クランクを回してゼンマイを巻きますが、ビクター(HMV)等の高級機では30〜40回程度で巻き上がる機種があります。それらの機械では巻き取りのギャーを工夫するなどして効率よくゼンマイを巻いており、巻き上げ時のクランク回転数を少なくできるのです。反面、クランクが大形となるオチはありますが、こんな所にも高級機の証があります。一見同じようでいて微妙に違うんですね。
 
 
3.再生

オートストップ状態であればサウンドボックスまたはアームを持って、通常アームをターンテーブル外側に振ると「ゴクッ」とロックが外れ回転が始まります。マニュアル状態であればストッパーを外すと回転が始まります。
但し、機械の機種によっては回転数調整とブレーキを一つのレバーで行う機種もあり(ニッポノフォンなど)、ブレーキ機構の構造的理由により始動時のみターンテーブルを手で押してあげないと回り始めないものもあります。
また、同じことは一般の機械についても言えます。ゼンマイを巻き上げても軽く押してあげないと動き出さない機械では、ガバナーの前後方向(軸方向)のガタが大きくなってる等調整が必要かもしれません。

さて、続いてサウンドボックスを手に持ち、針をレコード外周部に静かに降ろせば再生開始です。レコードによっては外周部から少し内側に押してあげないと音溝に上手く入らないものもあります。

卓上型など再生中でも上蓋を閉じられる機種では閉めることにより、レコードトレース時に発生するスクラッチノイズなど雑音を防ぐ効果があります。更にサウンドボックスからの逆位相の音も防げますので、自分の蓄音機が持つ本来の音を楽しむなら面倒でもその都度閉めた方がいいでしょう。実際、ビクターの卓上機ではそのような聴き方を推奨していました。

参照⇒動作原理/ホーン

尚、回転数調整は原則としてすべての蓄音機にあります。レバーやツマミの目盛はあまりアテにならないので、東日本なら50Hz、西日本なら60Hzのストロボシートがあると便利です。ご入り用の方は蓄音機トップページよりメールをいただければ画像をご案内しますので、プリントしてお使い下さい。但し、インバータ(周波数変換器)付きの照明下やLED照明下では使えませんので念のため。
返信でお送りしますので必ず記名(ハンドルでもかまいません)の上、連絡可能なメアドでお願い致します。
 
 
4.針上げ

オートストップ使用の有無に関わらず再生終了後速やかにサウンドボックス、またはその付近を持って持ち上げます。通常オートストップはターンテーブルの回転を止めるだけで、アームやサウンドボックスを持ち上げる機能はありません。マニュアル機ではサウンドボックスを持ち上げてから、ブレーキレバーでターンテーブルを止めます。
針上げ後1項の針セットに戻りますがアームの形式により、ターンテーブルから外れた個所に置くもの、サウンドボックスだけが反転するもの、アームが途中より折れ曲がり反転するものなどあります。普通はアーム途中より180°折れ曲がる機種が多いでしょう。

蓄音機のサウンドボックスは自重が重く、針圧も100g以上と後のLPレコードと比べると桁違いに重いのが普通です。したがって針を降ろす時は誰でも慎重になるのですが、意外に上げる時や取り扱い時に落下事故が多いものです。サウンドボックスのダイヤフラム(振動板)に良くある雲母のヒビやジュラルミンの変形・破損の多くは、落下によるカンチレバー(とんぼ)への衝撃が過剰な振幅となり大きな変形を招いたことによります。レコード盤上に時々見受けられる抉れた大傷もその跡でしょう。
注意1秒怪我一生!何だかんだ言っても蓄音機の命はサウンドボックスです。くれぐれもご注意下さい。
 
 
5.終了と収納

針を上げたフリー状態でターンテーブルを回し、自然停止するまで放置します。蓋はそのまま閉められるもの、一度持ち上げてから閉めるもの、固定のステーを手で引き(押し)ロックを外すものなど様々です。
手動ブレーキ付きのポータブル機で持ち運びがある場合、蓋を閉める前に必ずターンテーブルにブレーキをかけておきます。

自然停止させるまで回すとゼンマイが緩みすぎて巻き取り軸などから外れてしまうという意見もありますが、ターンテーブル回転時の摩擦は意外に大きいもので筆者の経験ではそこまで緩むことはありません。むしろこの方法だとゼンマイがいつも同じ緩み具合となっているので、ここから機種ごとの最大巻き数を覚えておくことで次回使用時に何回クランクを回すべきか簡単に分かります。これにより使い始めがいつでも同じ条件で開始でき、休止中のゼンマイへの負荷も最小限となります。
そんなにいつも同じところまで緩むの?と思われる方もいるかもしれませんが、これが毎回クランク1回転分も誤差なく緩むから侮れません。逆に、もし緩み方にクランク1回転以上の誤差があるようなら、機械の調整やグリスアップが必要かもしれません。

参照⇒動作原理・機械

尚、そのようにして停止したターンテーブルを更に時計回りに手で回したりするとゼンマイが緩みすぎ、主に巻き取り軸回りで外れてしまうことがあり注意が必要です。但し、反時計回りはゼンマイを巻く方向になるので普通は問題ありません。
ここで「普通は」と断ったのは、摩耗や調整の不具合により異常なガタなどある機械では逆回転しない、あるいはしにくい場合があるからです。そのように軽く逆回転しない機械では調整が必要ですので無理に回してはいけません。
ターンテーブル回転方向
余談ですが、クランクが紛失しゼンマイの状態が分からない機械やセットでは、ターンテーブル軸(スピンドル)を半時計回りに数10回逆回転させた後正回転方向に動き出すか確認します。動き出すようならゼンマイが生きてる可能性は高いと言えるでしょう。
 
 
メーカーまたは識者間でも必ずしも名称は統一されていません。
各部品名など第三者にも通じる一般的且つ平易な呼び方とし、必ずしも古典的名称には準拠していません。あくまで筆者個人の呼び方でもありますのでご了承下さい。
 
最終更新 2017年 1月15日
追記更新 2011年 3月28日
新規追加 2008年 2月11日
 
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