SP盤とレコードの歴史
新規追加 2012年 3月 1日
 
この度、レコード及び周辺業界関係でもおられた audioterp 氏よりご投稿をいただき、掲載のご希望を受け下記にアップさせていただきました。我々素人には何となく知ってはいても未だ謎の多かった経緯も多く、皆さんのご参考になれば幸いです。
 

 
SPにはほとんど関心なく過ごしていましたが、SP用のカートリッジ DL-102SD を入手し少しSPにも興味を持ちまして、ネットで検索していますと出てくる情報が間違ったものばかり。業界にあったものとして後世に少しでも正確に伝えたいのですが、なにしろアナログ・オンリーの世界にいましたのでPCのことは得意ではありません。
当方とて、さほど実体験がある訳でなく、実社会はトランジスタと真空管(学校では熱電子管でした)が切り替わった時ぐらいですので、レコードは身近ですがSPはほとんど実体験がない世代です。教えていただいた先輩や上司も他界して、元々が電気屋でプレイヤーは機構屋の領域でしたが、アンプの件などで頻繁に行き来がありその部門の先輩と特に親しかったので身近な存在でした。おそらく業者がまき散らしたと思われる誤ったネット情報を、少しは正していただけるかと期待しつつ書かせていただきます。

「Standard Play」という言葉が初めて登場したのは1925年英国グラモフォン社によってだそうで、それまでのものと区別するため 78s としたようです(過去は Speed78 等と記)。 78rpm が標準となった経緯は後でも記載しますが溝幅とスタイラス径より最長記録時間を求め回転数(この場合たしか 70rpm〜90rpm だったように思います)を出しますが、その中より社内で検討後決められたようです。それには先輩から伺ったように映画の同期も大いに関係があるようで、当時BGMにレコードを一緒に流していたようですが、欧米の 50Hz/60Hz 地域どちらにも都合の良い 78rpm も大きな決定要素と聞いています(当時も商業用は電動モーターが使われていた)。
33 1/3rpm も映画と関係があり、少し後の1928年まだ光学録音がなされる前、フイルムとレコードを一緒に同期して流すシステムをWE社が開発し、当時1000フィート/11分が最低必要で、ノーマルグルーブ/16インチ/33 1/3rpm を無理やり決めたようです。

その後 33 1/3rpm はいろいろ使われたようですが(カッテイング機械が完成しているので)、1948年マイクログルーブの発表(コロムビア)で再度登場します。さもフイルムと関係のあるように思われていますが当時は当然ですがフイルムは光学録音で、ゴルトマルク博士はじめ音響技術者の名誉のためにも根拠を示しておきたいと思います。

レコードは回転数が変化しませんが、線速度は変化し最内径を決めてやると線速度が得られます。速度振幅と最高周波数が一定の時には溝が単純に 1/3 になり、切込みピッチが一定(250本/in)として線速度の関係より最長録音時間が得られます。当時主流が10インチ/25cm であったのは明白ですが、この場合 31.8rpm で12インチにも無理なく使えそうで、手近にあった前記カッター(33 1/3rpm)機械を流用したものと思われます。この根拠は次の7インチ/45rpm にも言えることで、本来求められる値の近似値です。車載用のさらに細い溝を使った7インチ/16 2/3rpm にも言えることですが、これらの回転数で4スピード・プレイヤーが作られたのです。

同様にスタンダードの回転数がすべての会社に適用されたかは不明ですが、その考えで 78s が決められたのは1925年で、Standard Playingと呼ばれたのはLong Playingが出てからかも分かりません。中にはSPと 33/45 等の表記もありますのでStandard Recordsの考えかたがあったのは間違いなく、1950年代の海外製品には普通にみられる現象です。

米PHILCO Model50-1330 1952/3年頃
これが先輩からの伝聞ですが、当方がターンオーバー型カートリッジの表記に「SP」表記と「78」表記があるのに質問して、STEREOが登場して略称「ST」と「SP」がまぎらわしく、「78」表記に統一したと聞いたのも一致すると思います。

これらのことは私のブログにも書きましたが死人に口無しと言いますようネット情報はあまりにひどく、昔の音響の技術者もすべて適当にやっている訳ではありません。それにしてもネットにSP情報の多いのにはびっくりしました。私など興味はあっても、まともに Hi-Fi などとは思わぬ人間にとっては信じられない世界です。
特に電気録音のSPを再生し、蓄音機の手巻きで再生すれば電気を使わない世界のように思う人が多いのには驚くほかありません。レコードはSPも製造工程はすべて電気で造られていたのです。 
 

オーム社/オーディオハンドブック:日本オーディオ協会編/和田正三郎著 (抜粋)
文責/audioterp
 

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